『ジャンル別 洋書ベスト500』重版に際して

渡辺 由佳里


*適正年齢に関して

本書『ジャンル別 洋書ベスト500』には書誌情報に「適正年齢」という項目を設けている。これはあくまでも筆者の主観によって決められたものであり、読む人によっては評価が異なるかもしれないが、適正年齢を決めるにあたって考慮した点を以下に挙げておく。


1)本の内容をしっかり理解できる年齢

アメリカの小学校で1年生の読書指導のボランティアをしているときに気づいたことがある。文字は読めるが内容を理解していない(楽しんでいない)子どもが多いのだ(その子どもたちは、100%と言ってよいほどアジア系の子である)。競争心が強いアジア系の親は、子どもが小学校に通う前から読み書きを教えており、「うちの子は『小学校5年生レベル』が読める」と自慢するのだが、本人に内容を尋ねると状況を把握していなかったり、誤解していたりする。小学校5年生であれば笑い転げてしまう内容なのに、「ちっともおもしろくない」と言う。単語の意味を暗唱できる子であっても、小学校1年生では、「おかしい」と感じるための体験がないのだから、当然なのである。

ここでいう「内容を理解できる」というのは、本に書かれている内容を理解できるだけの体験や学習を積み重ねている、ということである。そして、子どもの脳の発達が本に描かれている情動を理解できるかどうか、というのが非常に重要である。ホルモンによって情動が揺れ動く思春期をまだ体験していない小学生が高校生向けのヤングアダルト(YA)青春小説を読んでも、主人公たちの気持ちはわからないし、思春期に対して奇妙なイメージを抱いてしまうことになる。自殺などの深刻なテーマはさらに理解できないだろう。自分を直接取り囲む世界にようやくなじみかけているときに、いきなり世界史に関わる本を読んでも理解できないし、ためにはならない。土台なしに家を建てても崩れるだけである。 子どもに本を選んでやるときには、特に注意していただきたい点である。



2)その本を「おもしろい」「興味深い」と思うために最適の年齢

3~4歳の子どもに本を読んでやると、思いがけないところで笑われ、「もう一度、そこを読んで!」とせがまれることがある。大人の私にとってはつまらないことでも、この年齢の子どもにはおかしくてたまらないのだ。小学校低学年向けの本はその年齢の子どもにとっておもしろいように書かれているし、ヤングアダルト(YA)は思春期の若者が共感を覚える内容になっている。

 本書では、仮に性的/暴力的表現がなかったとしても、結婚した夫婦の心理的葛藤など大人でなければわからないしおもしろくない内容のものは「成人向け」としている。たとえそういう本でも、高校生が読んで想像できるようなものや、大学を卒業するまでに読んでもらいたいモダンクラシックについては「PG15:高校生以上」とした。


3)性的/暴力的表現について(アダルト/バイオレンス)

子どもの脳は(高校生であっても)まだ発達しきっておらず、大人の脳とは異なる。多くの心理学者が説くように、幼い子どもには、まず「この世界は楽しく、安全なものである」と信じさせることが重要だ。

子どもにとって次に重要なのが「遊び」である(それについても多くの文献がある)。この時期だからこそ楽しめることをじっくり楽しませてやるためにも、(私自身が子育てした体験からも)中学生くらいまでは、極めて残酷な表現や、際どい描写がある性的なものは避けたほうがよいと信じている。 ただし、性や暴力についてまったく触れるな、ということではない。アメリカの児童書には、その年齢に適した性や家族関係や、戦争などリアルな世界の情報を少しずつ積み上げてゆけるものが揃っている。

本書では上記の点を考慮して本を選んだが、発達に大きな個人差が出る思春期のレイティングには悩んだ。中学生になったばかりの12、3歳には向かないが、14歳では読んでおいてほしい内容のものもあるからだ。悩んだあげくに参考としてのレイティングをつけたが、後は、わが子をよく知る親に選んでいただきたい。 また、高校生向けのヤングアダルト(YA)には、一般の「成人向け」より性的/暴力的表現が強い作品がけっこうある。これらを「成人向け」にしなかったのは、読者の対象が高校生だからである。そのため新たに「PG15+(アダルト/バイオレンス)」という適正年齢の項目を設けた。成人向けに書かれたものでも、高校生が読んでおもしろいだろうと思う作品もこれに含めた。

R(成人向け)は、性的表現がないか、あっても詳細な表現がなく、あっさりと触れられているもの。R(アダルト/バイオレンス)は詳細な性的表現や暴力描写を特徴としている作品であり、R+(アダルト/バイオレンス)はそれがさらに強いものである。


*適正年齢の変更理由

本書の第2刷では、多くのノンフィクションを「PG12(中学生以上)」から「PG15(高校生以上)」に変更した。第1刷でこれらをPG12にしたのは、まず表現に問題がなく、私自身がこういった作品を中学生のときに読んでいたからだった。しかし、大人になって読み返し、「こういう内容だったのか!」と驚いた本があることを思い出した。中学生で読んだことに満足してしまったために、もっと内容が理解できたかもしれない高校や大学時代に読まなかったのである。中学生でもわかる子はいるかもしれないが、それは稀だろう。したがって、出会いがやや遅いほうが理解してもらえると思った本に関しては、PG15に変更した。